特集『ハウスセラピー』
ココロとカラダの健康を追求した自然素材のいえ
埼玉県鳩山町。
関越道を坂戸西インターで降り10分ほど走ると緑いっぱいの大自然がひろがる。窓をあけてクルマを走らせると入ってくる空気が清々しい。
とてもいい気分だ。
緑のトンネルを抜けると左手におもしろいカタチをした建物が見えてきた。雲のような白くて不思議なフォルムの家。その存在感に圧倒されながらも妙に愛着を感じる。
とかくカタチのおもしろさだけに気をとられてしまいがちだが後の取材から神橋和弘の深い建築思想が明らかになった。
『ハウスセラピー』
人は住む家によって大きく影響を受けるという。ココロとカラダとイエはつながっている。いい環境は健康をつくり、健全な肉体にみずみずしい精神が宿る。
いいエネルギーの家に住むことは素晴らしい人生を送るチケットのようなものだと。
ココロとカラダの健康を考え抜いた家づくり
それを実現する自然素材への徹底したこだわりとオリジナルなデザイン
丸いフォルムが包み込むような感覚のLDK。木の香り、フィトンチッドに心身ともに癒される。まるで胎児になったような気分。
ストローベイルハウス
ストローベイルハウスとは、藁のブロック(ベイル)を積み上げてつくった家。そのルーツはアメリカの西海岸で100年以上を経たものも存在する。断熱性に優れ、自然の材料をつかった環境負荷の少ない建物として注目されている。
日本に入ってきたのは2000年頃。先駆的な建築家によりワークショップ形式で建てられたものが国内に100棟以上存在する。この建物のようにハウスメーカーが建築確認をとって居住用に建てたのは珍しい。
木造の耐震構造の躯体の外側にストローベイルを積んだハイブリッド構造になっている。藁は地産地消、地元埼玉県産のものにこだわった。
エネルギーの良い素材が住む人に良い影響を与えるという。
感性に響くフォルム
この空間にいるとまるで胎児になったよう。すべてと一体となり宇宙につながる感覚。自然と遊び心と創造性が溢れ出す。デザインと空間は感性を刺激する。
いつか学んだことがある。
もっとも大きく人生にイノベーションを起こすのは「環境の変化」であると。心の奥底の想いを表現したフォルム。お気に入りに包まれて暮らす。生きざまを表現した空間で毎日を送る。
感性に響くフォルムには、イノベーションを引き起こす力がある。
自然素材へのこだわり
家に入ったとたん、木の香りに包まれる。この家では、一般の家で使用される新建材はつかわれていない。杉材を中心に、床材やドアはすべて無垢材。素足になると、肌触りがよく冬でもあたたかい。
無垢材からはフィトンチッドという成分が出ている。これが森林浴と同じ効果があり、住むことで精神をリラックスさせ整えてくれる。木の良さをラッピングしてしまわないよう汚れや傷はつきやすいがあえて無塗装に。経年とともに飴色に近づく変化をたのしむ。壁と天井はすべて漆喰が塗られている。漆喰には湿度調節作用があり、空気を浄化する機能がある。生活臭を感じない澄んだ空気がおいしい。
柔らかな表情に包みこまれるような感覚が心地いい。
健康へのこだわり
副交感神経がはたらくカラダが休まる家。独特な形状の照明は光が直接人体にあたらないよう設計されている。漆喰に反射した柔らかな光が心地いい。
現在はパソコン、スマホ、眠らない街と、人間本来のリズムが狂いやすい時代。副交感神経のはたらく家、カラダのバランスを取り戻すことが隠れたテーマ。自然素材の良さが健康住宅のベース。
その領域を超えた健康とアンチエイジングの研究が活かされている。
不思議な形のホワイトボード。自然と創造力にスイッチが入る。
あたたかくやわらかな雰囲気を醸し出す間接照明。
エアコンカバーは前衛アート感覚。1Fの大地の間のテーマは「道」
2Fの「宇宙の間」はビッグバンをイメージした「誕生」
岩盤浴ルーム。石はオーストラリアのバドガシュタイン鉱石を使用。温度設定が高めに調節できる温熱システムを選定した。
コルクが気持ちのよい洗面室。奥に見える扉が岩盤浴ルームへの入り口。
ドーム型のお風呂。ハート形の浴槽につかって天井を見上げると宇宙空間に浮かんでいるような感覚。
Data(新築)
工期 | 約6カ月 |
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施工面積 | 165.2㎡ |
総費用 | 4800万円 |
構造 | 木造 |
Materiais
屋根・外壁 | ストローベイル積み 漆喰塗り |
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壁・天井 | 漆喰塗り |
居室床 | 杉 |
サニタリー床 | コルク |
バスルーム壁 | 漆喰塗り |
天井 | モザイクタイル |
バスルーム床 | タイル |
建具 | オーダー |
照明 | LED |
キッチン | オーダー |
衛生機器 | Panasonic、LIXILなど |
建築家インタビュー
上位満足の段階からの家づくりを提唱。 「真の建築家は建主自身」という信条のもと、徹底して心の奥底の想いを引き出しカタチにする。
そんな神橋氏自身が設計したハウスセラピーの家について直撃した!
▼この家が生まれるにいたったのはどのような経緯があったのですか?
33歳のとき、東京都心の鉄筋コンクリートの中古マンションに引っ越しました。会社が大きくなるにつれ、教育、マネジメントを学ぶ必要がでてきて半分は仕事、半分は研修という生活。医者の不養生ではないですけど、住環境としてはあまりよくなかったかもしれません。
睡眠時間3、4時間ほどで朝から晩まで仕事づけを10年間ほど。当時は無我夢中で気付かなかったのですが、相当にカラダが悲鳴をあげていました。
もちろん、大人も例外ではなく、建物は精神的にも肉体的にも人に大きな影響を与えている。体の不調が激しくなった38歳のときマンションの一部屋を無垢材と珪藻土でリフォームしました。 みるみる体調が良くなっていったのですが、正直、それはカラダがかなりまいってることに気付いていくことでもありました。気をはってサイボーグのように働いているうちは聞こえなかったカラダの声が聞こえるようになっていきました。
精神的にも段々とクリアーになってきて、自然と経営する会社の社風が研修会社でも誉められるくらいよくなりました。その大きな変化から住環境の大切さを身をもって体感し、健康にとことんこだわった家をつくろうと考えるにいたりました。
▼とても特徴のあるデザインですが、どうしてこういうデザインになったのですか?
業界に限らず言えますが、建築に携わる人にも2つのタイプあります。「ヒト」にフォーカスする人と「モノ」にフォーカスする人。わたしの場合は「ヒト」のほうでした。建築を生業としていくなかで、やがてひとつのブランドが生まれました。
『ひとつだけのわたしスタイル』
真に欲しいものがわかってる人というのはなかなかいないもの。打ち合わせのなかで「心の奥底の想い」に焦点をあてていると、当初は思いもよらなかった願いに気付く。表面的な要望を深堀りして聴かせていただくうち、心髄の願いにいきあたる。それをカタチにした家というのは人生を変えるほどの力がある。
現代の建築は、構造美を主体とし、つくり手主導で発展してきました。しかしこれからの時代、メーカーの都合を超えて真の建築家は建主になる時代が到来する。
『建物に人を合わせる時代から人に建物を合わせる時代へ』
そんな新しい時代の象徴として、とことん感性から湧き出すものを表現する家をつくってみたい。この建物がいいというわけではなく、人それぞれにあらわれるものは違っていい。 そういった意味で、自身の心の奥底の想いにつながり、素直にそれを表現したら、こういうデザインになりました。
- Profile
- 神橋和弘(かんばしかずひろ)
- 兵庫県出身。早稲田大学政治経済学部卒。
- 1999年、株式会社エコハウス設立。
コーチングトレーナー。セッション、コンサルティングのプロ。新しい時代の建築家。
設計の前に住む人が幸せでないといい家づくりは決してできないとの信条から家族関係のつなぎなおし、家族のビジョンや理念の抽出をするなど異色の家づくりには人生を変えるほどの力がある。
心理学、経済学、マスコミなどの社会的洗脳に警鐘を鳴らし、効率一辺倒から人間性、感性の復興を提唱。
新しい時代の基軸となる日本の原始シャーマニズム的世界観を日常化する「Peace Villaはとやま」を建設中。
ふと思うことがある。「家って生き物なんだな」と。
誰でも気軽に入ってこれる丸型のキッチン。自然とみんなで料理がはじまりそうな雰囲気。
夜明け前。童話の世界のような幻想的な空気が日常。
施工中の様子
神橋氏が紙粘土で作成したフォルム。構想段階では誰も実現を予想できなかった。
地元産の藁でできたストローベイル。仲間と一緒に積み上げます。
藁積みはワークショップ形式で。エコハウスの建築士さんも多数参加。
藁の上に漆喰を何層にも塗っていきます。職人さんの腕が光ります。
テレビ局の取材を受けました。作業を止め、熱く語る神橋氏。
完成後・・・
ピザ窯に火が入り、みんなでBBQ。大自然のなかで笑顔があふれる楽しい瞬間。
食後は日当たりのよいウッドデッキでリラックス。ウグイスのさえずりが心地よいBGM。
▼ハウスセラピーの家、住んでみて感想は?
ここに住んで1年。人生の方向性が大きく変わってきている。眠りが深くなり、自然と朝は早く起きるようになりました。
カラダが軽いこと、ココロが軽いこと。
何かを得るよりも素直な自分であること。
仕事が大好きで中毒気味なのは抜けきっておりませんが(笑)カラダを休めることも少しずつ覚えてきました。
体験してはじめてわかる。カラダがラクって一番の幸せ。
そうそう、昔はこういう顔でした(笑)
今から考えると、昔は毒でも飲んでたような?そんな感覚です。
これからさらに、スッキリしていくといいですね。
正直、都心に住んでるころは気が付かなかったのですが。
感覚の麻痺というのはおそろしいもの。
こちらに引っ越してきてコンビニのものが食べられなくなりました。
味覚とか、好みとかが変えようと思わなくても自然に変わってくる。
以前は、ムリをしてしんどくて、いろんな刺激で埋め合わせていた感じ。
こちらに来ると、ほんとうに欲しいものがわかってくる。
カラダがラクだと、いろんな習慣が自然に変わってくる。
ゆっくり、ゆっくりとですが、ココロにも大きな変化がありますね。
住みはじめて1年。むくみがとれてスッキリしたのを実感。